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妖怪うぃき~現代にも現れる妖怪達~

妖怪……いるんですよ、現代にも。現代で起きた、妖怪達の目撃情報を紹介いたします。

放置しすぎて更新する気概も無いので、図鑑の方に統合し始めてます。過去の記事も一部図鑑へと移しているので、妖怪うぃき的妖怪図鑑の方へお越しくださいませ。

隠れ里を訪ねて

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隠れ里(かくれざと)

 

はじめましての方も、お世話になっている方々も、こんにちは。人呼んで妖怪トラベラーの滝田です。

私は妖怪探索というよりも、怪異、または妖怪の住処などを探索することを主にした冒険家です。本業はコンビニ店員です。

 

私は、理想郷と呼ばれる「隠れ里」を探す旅を何度もしてきました。

聞いたことがあるでしょうか?

ーーそこに流れる時間は緩やかで、争いごとなど全く無く、誰もが平穏に暮らしている。元の世界に戻ってみれば、随分と長い年月が経過していたーー

などなど。

お気付きかとは思いますが、あの浦島太郎の逸話とも酷似しています。つまりこれは単なる妄想発の創作話に留まらず、このような隠れた世界が実在した可能性は高いと言えるのです。

 

実はこの隠れ里、幾つか実在の痕跡も残されています。

例えばとある県では、洪水が起きた際に上流からお膳が流れて来た為調べてみたところ、人は発見できなかったものの地図にも載っていない美しい村が発見されたそうです。

ワクワクしてきませんか?

ーー隠れ里はこの世の人間が住んでいるのか? はたまた異なる次元の住人が作った里なのか? それを知るべく、私は何度も探索の旅に出てきたのです。

 

では、私はなぜ今筆を取っているのか。

ただの身の無い冒険譚を書くつもりはありません。

そう! 私は隠れ里を発見し、更には入ることに成功したのです。

 

かつて私が探索したのは、宮城県、鹿児島県、岐阜県等多数の県に跨りました。しかしどこでも隠れ里には到達できず仕舞い。それがなぜだったのか、今回初めて隠れ里に至った私は知ることになるのです。

なんと、

そもそも、入り口はこの世にはなかったのです!

 

 千葉県は成田山の麓に、隠れ里の入口なのではないか? と妖怪通の間で噂されている旅館があります。かつて隠れ里を訪れた者の多くがその旅館を利用した後に隠れ里へと行ったらしいのです。私も当然数回利用し、旅館内にある神棚に願掛けして何度も探索しました。しかし先に書いたようにさっぱりでした。

そして今回、またその旅館を利用し、探索を開始したのですが、思いもよらぬ「入口」から、私は隠れ里へと到達することになります。

その入り口とは、「夢」でした。

 

――さっきまであの旅館で寝ていた筈が、気付くと私は大きな赤い鳥居の前に立っていました。周りには静かな緑の美しい森が広がり、鳥居の奥には御殿のような立派な建物。なんとなく、それが夢であることは解ったのですが、その場では夢と断定できる要素はありませんでした。あまりにもリアルだったのです。

興奮するでも、困惑するでもなく、私は静かな心で吸い寄せられるように鳥居をくぐり、目の前の御殿へと向かいました。森の中に佇む、大きな御殿へ。

御殿は、シミやヒビ一つない美しい壁を保った、瓦屋根のものでした。御殿の入り口と思われる大きな門の前に立つと、中から甘美な匂いが漂ってきます。お酒でも、香水でもない不思議な甘い匂い。果物の匂いが一番近いかもしれません。

私が門に手を掛けようとすると、向こう側からぎぃと音を立てて門が開かれました。誰かがいる……そう思いましたが、不思議と恐怖のようなものはありませんでした。

門を開けてくれたのは、大きな鼠でした。作務衣のような物を着た、美しい白い鼠です。

鼠は何か言葉を発しましたが、私には全く理解できませんでした。そういえば何かの本で、隠れ里の住人は古い言葉を話す、と読んだことがあります。今の日本語とは程遠い、古い古い言葉です。

私は何かを言おうとしました。しかし、思うように言葉が出てこない。美しい鼠は私をじっと見ています。大きな丸い瞳で、じっと。何か上手く言い繕いたいのに、その鼠の視線が私の言葉を全て封じ込めます。まるで本当の事以外は発言できない……そんな雰囲気でした。

必至に言葉を探す傍ら、私は開かれた門から見える光景に絶句しました。

――理想郷。

門を開けた先は庭になっていて、薄い桃色の水が噴き出す噴水が中央に見え、その噴水の回りにはカエルやウサギやネズミ、そして人間が楽しそうに酒を飲み交わしています。庭の奥に見える御殿の広間では、狸がお腹を太鼓にして叩き、キツネが琴を弾き、イタチがゆっくりとした動きで舞っていました。

隠れ里――いや、隠れ御殿でしょうか。私は今まで味わったことのない幸福感に包まれました。

目の前の白鼠がまた何かを言いました。私に迷いはありません。正直に、ここに来た理由を言えばいいのです。ここに来た理由――白鼠の視線が、私の心をえぐり、あらゆるコンプレックスを沸き上がらせる。ここで嘘はつけない。私は一体何の為にここに来たのか? そうじゃない……そうじゃないのに……でももしかしたら……

「取材に来ました」

私はそう言いました。いや、言ってしまいました。

白鼠は小さく頷き、くるっと踵を返しました。

そして門は閉ざされたのです。

 

 

――あの白鼠は門番であり、そこを訪れた人間が入るに相応しいかどうかを見定める役割だったのでしょう。私は隠れ里に入りたいと思う純粋な気持ちがあるつもりでいて、あの時「取材」という言葉を発してしまいました。思い返せば、確かに私は下心を多分に持っていたような気がします。まだまだ、あそこに入る資格は無いということでしょう。

あの理想郷に入れた人間は果たして現代に何人いるのか。あの雰囲気を僅かでも感じることが出来た私には、ハッキリと解ることがあります。

あそこに入ったのなら、もう決して出ることはできない。そう思うのです。