妖怪うぃき~現代にも現れる妖怪達~

妖怪……いるんですよ、現代にも。現代で起きた、妖怪達の目撃情報を紹介いたします。

放置しすぎて更新する気概も無いので、図鑑の方に統合し始めてます。過去の記事も一部図鑑へと移しているので、妖怪うぃき的妖怪図鑑の方へお越しくださいませ。

恋する乙女と生霊退治

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生霊(いきりょう)

 

私は生霊になった。

別に死んだりしたわけではない。

世間で、幽体離脱と呼ばれているものとほとんど同じだと思う。

私は激しい恋をした。

会社の社長に恋をした。

それは絶対に許されない恋。

社長には妻子もいる。愛人がいる噂だってある。

でも私は諦められなかった。

だから……生霊になった。

私が社長に近付くには、それ以外思いつかなかった。

私は毎晩社長の家に行く。

六本木の、高層マンションの最上階の部屋。

生霊の私は、ふわりふわりと幸せな軌跡を描いていつもその部屋へ向かう。

社長の妻にタンを吐きかけ、子供の顔を踏みつけ、ようやく社長の部屋へ。

ぐっすりと眠る社長の顔に静かにキスをする。

一体社長は何回他の女とキスをしたのだろう? 千回? 一万回?

ならば私は一億回キスをする。全ての女に勝るため。

もうすでに違う部屋で寝ているじゃないか。

早く別れればいい。

私が毎晩慰めにくるから。

早くこんな女、捨てちゃえばいい。

私がいくらでも尽くしてあげるから。

 

 ある日、社長がオカルトな儀式に入れ込んでいるという噂を聞いた。

私はすぐに解った。

気付いていたのだ。

私の存在を感じていたのだ。

それで社長も、生霊になろうとしているのだ。私と、もう一つの世界で過ごすために。

そして私は、いつもよりもうんとおめかしをしてベッドに入った。

「焦らなくていいんですよ。

私が今日からゆっくりと教えてあげますから。

カラダから、魂が抜け出る感覚を、丁寧に教えてあげますから。

一緒に生霊になりましょう。

うつつの全ての厭な事を忘れ、ただただ官能的で美しい夜の中、飽くことなく交わりましょう。

私の中で何度も蕩けてください。私もあなたの胸に何度も顔を埋めて喘ぎます」

 

いつもより軽やかに、幸せな気分に満ちた私は、ゆらゆらと、ふわふわと、社長の部屋へと向かった。

けれども今晩は社長の姿が見当たらない。

夫人も、子供も見当たらない。

しん――としている。

ふいに背後から声がした。

 

「出たな悪霊! 退散してくれよう!」

社長ではない男。そしてぼうっと見ている私に向かい、何やら呪文のようなものを唱えている。

そんなもの効かない。何の意味がある? そもそも言葉がわからない。

けど――。

そうか――。

私を退けるための儀式だったのか。

許さない。

私の想いを……こんな形で……

絶対に許さない。

呪文が効いたからではなく、私を退散しようとしたその気持ちが、悪意が、許せない。憎い。私はこんなにあなたに逢うのを楽しみにしているのに。楽しみに生きているのに。

 

そして――私は今、死霊になろうとしている。

愛の為に死ぬことは悪いことであるかどうか。

そんなくだらない話はどうでもいい。

私は、私がしたいように生きる。あるいは死ぬ。

一人の男の為に死ぬことが、悪いことであるわけがない。

そして大事なことは、私は死ぬのではなく、これから、生まれ変わり、永遠に社長の傍に居続ける、死霊になるのだ。

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死霊(しりょう)