嘗女(なめおんな)に見る妖怪誕生のカラクリ
嘗女(なめおんな)
初めまして。私はカサヤマという名の、教育関係の仕事をしている者です。
実はフリーライターの里中は友人でして、この度里中の代わりに記事を書くことを頼まれてこうして執筆している次第です。
始めに断っておきますが、私は妖怪などという存在を信じておりません。
妖怪と聞いて連想するのは、あくまでも非現実的な「何か」であるはずです。それは非現実的であるから成り立っているものであり、仮に現実に存在しているとなればまた別の言葉へと変わってしまうと思うのです。
友人里中はよく妖怪を見ると言います。しかし私は一度も見たことが無い。里中にとっては妖怪は実在するのかも知れませんが、私の中では妖怪は存在しないのです。
このような偏屈な私に記事を書くようお願いしてきた里中の真意は解りませんが、頼まれたからにはしっかりと私なりの「妖怪が存在しない理由」を書いていきたいと思います。
熱心なオカルトファンならご存知だとは思いますが、妖怪や怪異といったものは「人間に理解できない現象を肩代わりする存在」であることはご存知かと思います。しかしそれはあくまでも「その当時の段階で」ですから、現代になって妖怪等の目撃例が少ないのも、それらかつては理解できなかった現象も現代の科学技術によってほとんどが解明されてしまっているからであることが解ります。
ほとんどの妖怪はこれに当てはまるのではないでしょうか?
また、別の妖怪誕生のプロセスとして、「人間の異常な行動」が同じように理解できないものとして妖怪扱いされてしまう例もあります。
そっこで今回紹介するのが「嘗女」という妖怪です。
実は、この嘗女は明確に「妖怪」と言われているわけではありません。
正体は実にシンプルな、舐めるのが大好きな異常性癖の持ち主なのです。
様々なジャンルのアダルト動画が氾濫している昨今、全身を舐める程度の行為は異常でもなんでも無いように思えるかも知れません。しかし昔は違ったのです。
昔の人には理解できない「嘗める」という行為が、そのまま大げさに表現され、あれは人間じゃないのでは? 妖怪なのでは? ――という勝手な想像から「妖怪嘗女」は産まれてしまったのです。
これは別に他の性癖でもよかったのではないでしょうか?
例えばフェチ。お尻が異常に好きな男性がいたとして、その男性を不気味がった誰かが妖怪ではないのか? と風評を立てる。その風評には尾ひれがついて、盛大に誇張され、やがて誰かが「妖怪尻齧り」とかという名前を付けてしまう。
それだけで立派な妖怪が一匹誕生してしまうのです。
実はこれ、現代におけるビジネスのマーケティングとなんら変わりが無いことにお気付きでしょうか?
「妖怪」を「アイドル」に変えて考えるだけでもその意味がなんとなく解っていただけるかと思います。
ちなみにですが、私は妻の全身を舐めるのが好きです。
普段舐める等という発想の至らない箇所を舐める。すると相当に興奮するものなのです。
そう、私は妖怪「嘗男」なのです。
――このように、自分の少し他人には理解されないような癖を説明する時、妖怪という言葉は非常に役に立ちます。人々の理解できない、あるいは説明しにくい事象を「妖怪」に代わりに説明してもらう。
そのようにして、時に便利で、時に不気味なニュアンスの妖怪という言葉は愛され続けているのではないでしょうか?
存在ではなく、言葉として……