妖怪うぃき~現代にも現れる妖怪達~

妖怪……いるんですよ、現代にも。現代で起きた、妖怪達の目撃情報を紹介いたします。

放置しすぎて更新する気概も無いので、図鑑の方に統合し始めてます。過去の記事も一部図鑑へと移しているので、妖怪うぃき的妖怪図鑑の方へお越しくださいませ。

盲目のおじさんに伝えたい言葉「手目坊主」

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手目坊主

 

初めまして。

突然ですが、私の心を常に支えてくれた、盲目のおじさんの話を書きたいと思います。

友達や家族に話しても誰にも信じてもらえず、それでも私はそのおじさんのことを誰かに話し、どこかに書き記しておきたいのです。

 

まず、そのおじさんと私が出会った場所についてですが、実は本当に記憶にないのです。これも家族や友人に疑われるところなのですが、本当に、いつからそのおじさんと話すようになったのか全く覚えていないのです。気付いた時には何かある度に愚痴を零したり、相談事を聞いてもらうようになっていた――のです。

 

そのおじさんはいつも河原にいます。河原と言っても自然溢れる雄大な川ではないので、こじんまりとした、静かで地元の人にしか知られていないような草ぼうぼうの河原をイメージしていただけるといいかと思います。

おじさんはいつも言います。

「この河原に来るのはミユキちゃんと河童ぐらいだぁ」

そして顔をしわくちゃにして笑うのです。

おじさんは、両目が潰れていました。目が見えないのです。それでも毎日河原に来れるのには理由がありました。おじさんは、両手に目が付いていたのです。もうすっかり慣れてしまっていた私には、特に不思議なことには感じなくなっていました。そう、目が見えないわけではないですね。普通の人の目がある位置には目が無いだけです。

おじさんはいつも言います。

「神様が作った人間つってもなぁ、たまにゃあ神様も失敗だってするもんさ。世間様は失敗作にはとんと冷たいぞぉ。やれ化け物だ妖怪だと罵り蔑む。ミユキちゃんみたいな子ぉがもっといりゃあ、失敗作だって幸せになれるかも知れないのになぁ」

 

おじさんはいつも青い浴衣のようなものを着ていました。夏でも、冬でも。私が物凄い厚着をしていた冬ですら、おじさんは浴衣でいつもの河原の、いつもの岩の上にじっと座っているのです。当然、私は尋ねたことがあります。「そこで何を待っているの? 何で毎日ここにいるの?」と。

おじさんは言いました。

「理由がなきゃあ河原に来ちゃいけないわけじゃないだろぉ? でも理由が無いわけでもない。理由なんて、そんなもんさぁ。あったって無くたって、大した差じゃあ無い」

 

おじさんはなぜか、両手に付いた目はほとんどこちらに向けませんでした、いつも太腿の上に両手を置き、隠すようにしているのです。

おじさんは言いました。

「目で見えることだけが真実だと思うから、人は間違う。かといって何も見ずにいたら、もっと間違う。難しいもんだよなぁ」

 

おじさんがよく私に話してくれたお話があります。それはいつの時代かはわからないものの、かなり古い時代の話で、とても悲しいお話でした。

――大きな屋敷に住む主人とその妻。二人は仲睦まじく暮らしていたけれど、屋敷内で働かせていた掃除番の男が妻に恋をしてしまった。掃除番の男は気性の荒い性格で、力づくでも妻を奪おうと考えていた。そんな掃除番の男の噂を聞いてしまった屋敷の主人は、二人きりの機会に掃除番の男に問いただしてみた。すると掃除番の男はすぐにそれを認め、「奪い取る」とまで宣言した。それに怒った主人は、すぐに掃除番の男をクビにした。

その数日後、主人が商談を終え、帰路についている時、数人の男に襲われてしまった。男達は主人を身動き取れぬように縛り上げると、主人の両目を石で殴打して潰してしまった。痛みで気絶してしまった主人。次に主人が目を覚ますと、聞き覚えのある声が耳に入ってきた。かつてクビにした掃除番の男の荒れた声。拒絶する自分の妻の声。何も見ることができない。何も見えない。そして、音だけで解る、妻が犯される状況。声。さらには、拒絶を繰り返す妻に対し浴びせられる罵声、拳の音。次第に声が枯れ、最後には何も言わなくなる妻。「死んだか」と呟く掃除番の男の声。

主人は何度も叫び、何度も暗闇の壁を叩いた。けれども何の反応も無い。代わりに、体中が熱くなるような感覚。否。感覚では無く、燃えている。火を点けられている。

主人は誓った。

例えこの身体が燃え尽きようとも、この恨み、晴らさずにおくものか、と――

そしておじさんは毎回こう言います。

「そんで生まれたのがこの失敗作だぁ……なんてな」

しわくちゃの笑顔も、この話の後だけはどこか暗かったのを覚えています。そのお話は本で読んだ、とおじさんは言っていました。目が手に付いてると、本のページをめくりながら読めるから便利、とも言ってました。

 

私が最後におじさんと会ったのは、去年の夏でした。

いつも通りに会いに行った私を、珍しく悲しそうな顔で迎えたのを今でもはっきりと覚えています。

おじさんは最後にこう言いました。

「今までありがとうなぁ、ミユキちゃん。世話になった。

実はな、ようやくここを離れられそうなんだぁ。

復讐とか、仇、って言葉知ってるだろ? ああいうの、良くないって言われるよなぁ。でもな、人によっちゃあどうしようもない時がある。どうしても復讐しなきゃならんとか、気が晴れるかどうかは別として復讐したい、とか。あんなのな、良いも悪いも無いと思うんだよなぁ。まぁ、とにかく、ミユキちゃんは復讐とかしなきゃならんような最悪な事態に巻き込まれないように生きていけることを心底願ってるよ。恨み妬みだけで生きるってのは、面白いもんじゃないぞ」

 

その翌日。

いつも私がおじさんに会っていた河原で、一人の男性の遺体が見つかったのです。

まさか? と思いましたが、その男性はあのおじさんではありませんでした。

しかし私はよくあの河原に行っていたため、警察の事情聴取もされました。私は何も隠さず、ありのまま、あのおじさんと話していただけであることを警察には告げました。警察は私の話したおじさんの事を執拗に聞いてきました。疑っていたのでしょう。毎日河原にいる、手に目が付いた、不気味な男として。

 

遺体として発見された男性は、かなりの前科を持った男であることが新聞等で報じられました。レイプや、窃盗等、沢山の罪を犯していて、現在も仮釈放中だったそうです。死因は謎。犯人も捕まらず。しかし新聞は面白おかしくこう書いていました。

「犯人は妖怪・手目坊主か?」

と。

少し容姿が変わっているだけで、化け物だ妖怪だと言われてしまう――おじさんの言った通りでした。そして、警察におじさんの話はすべきではなかったと私は激しく後悔しました。

結局のところ、おじさんが遺体となって発見された男性と関係あるのかどうかはわかりません。しかし、私には全てが解っているのです。……いや、わかる気がするのです。

おじさんが最後に言った謎の言葉。「 恨み妬みだけで生きるってのは、面白いもんじゃないぞ 」

 

長い間、ずっと探し、待っていたのでしょう。

妻の仇……

掃除番の男の子孫を。

 

私の推測が当たっていたとして、私はおじさんを手放しで褒めてあげることなどできません。恨みを晴らすために、仇の子孫の命を奪う。それがまっとうな方法だとは思えないからです。しかしその復讐が虚しいことであるかも知れないことは、おじさん自身も予期していました。それでも晴らさずにはいられなかった。それほどに強い恨みだった。そんな強い恨みを持ち続け、存在し続けてきた……。

 

これは、悲劇が産んだ悲劇でしかない。そう私は思っています。

けれどもおじさんには一言。

長い間ご苦労様でした、と言ってあげたいです。