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妖怪うぃき~現代にも現れる妖怪達~

妖怪……いるんですよ、現代にも。現代で起きた、妖怪達の目撃情報を紹介いたします。

放置しすぎて更新する気概も無いので、図鑑の方に統合し始めてます。過去の記事も一部図鑑へと移しているので、妖怪うぃき的妖怪図鑑の方へお越しくださいませ。

妖怪「覚」に奪われたもの

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覚(さとり)

 

私は某大学の論術研究会というサークルに入っていました。

今では無くなってしまったサークルですので書いてしまいますが、私が在籍していた当時は、論理的思考(ロジカルシンキング)の修行と題し、夏になると合宿を遠征で行う慣習がありました。その合宿の内容こそが通常では有り得ないもので、「妖怪、覚を論破する」というものでした。

そもそも妖怪などという抽象的なモノが存在するという前提の合宿であったことがまず私には理解できなかったのですが、後々その考え方は改まることとなりました。

理由は私も覚に遭遇したからに外なりません。

 

妖怪「覚」とは、私の見たものでは猿のような外見でした。どこか猿とは異なった印象を持ったのですが、それが容姿の何らかの特徴であるのか、それとも遭遇した際の場所の雰囲気がそう錯覚させたのか――それは定かではありません。外見だけで妖怪としてしまうことは勿論早計ですが、私の体験した「覚」の力は、古くから人間に理解できない現象を「妖怪」に押し付けてしまってきたのと同様に、到底私達に理解できるものではなく、「妖怪」としてしまうのが最も簡単なように思えます。

 

夏合宿は、サークルメンバーも楽しみにしている行事の一つ。ただでさえ普段は室内で「言葉」や「思考」と向き合うだけの日々ですから、そのような遠征が楽しみでない筈がありません。

そしてさらにそれを彩っているのが、過去に数人のメンバーは遭遇できたという「覚」という妖怪。全員が出会っているわけではなく、運がよくなければ出会えないようでした。

合宿中は、日中のほとんどを山や、川や、森の散策に充てます。会話をしながら散策する――それだけ聞けば随分楽しいもののように感じるかも知れませんが、当然会話は論理的思考に基づいた「覚」についての会話等で、案外疲れるものなのです。

 

5日間の予定日数でしたが、3日目までは誰も覚を見かけることができませんでした。簡単に会えるものではないのはわかっていました。過去の遭遇例以外、私達には何一つとして覚に関する情報は無いのですから。

 

――そして四日目の朝。

正直、皆の中には「今回は覚に逢うことはできないのでは?」という気持ちが芽生えていました。それでも別によかったのです。合宿自体はとても良い気分転換になりましたし、メンバーの絆も深まったように感じていたからです。

小鳥の囀りや、大変美しい木漏れ日に満ちた森を朝食後に散策していた私達。

その時、木の上から声がしたのです。

「ケッキョクサトリナンテイネェジャネェカヨ」

メンバー全員が声のした上の方を見上げました。

小さな、猿のような、リスのような、小動物が木の上にちょこんと座っていました。

「マサカアレガサトリ?」

まさかあれが覚? ――私が心に思った事を、その小動物はほぼ私が考えるのと同時に声に出して言いました。間違いない。その場の全員がそう確信したと思います。

覚の声は、抑揚もあり極めて人間の言葉に近いものの、どこか棒読み的な感情の無さがありました。

「サトリワオソラクイミヲワカッテイッテイルワケジャナイ」

私たちは顔を見合わせます。心に思ったことを全て先に言われる……。こんな妖怪相手に、どう論破しろと? そもそもどう会話しろと?

幸いだったのは、今回覚に遭遇したのがメンバー全員であったことです。

三人寄れば文殊の知恵。とはいえ――論破という言葉自体この状況には合わない気がしたのも事実。

「よし。問題解決からだ」

言ったのはリーダーです。問題解決……。

「ソレヲロンリテキニオコナウノダ」

「それを論理的に行うのだ!」

リーダーは覚を無視するかのように覚が発声した後に自分の言葉を発しました。

メンバーの一人の女の子がすぐに答えます。

「簡単です。この場合での問題は、そもそもサトリには私達の言語の意味を理解していない可能性が高い。つまり論破というこの合宿の目的に到達することは、論破という形が成り立たない時点で見直す必要がある。解決策として、合宿の最終目的である論破、という部分を変更するのが良いかと思います。」

「ウッワメッチャアタリマエジャン」

覚が誰かの心の声を言いました。私達はお互いの顔を見合わせ、首を振ります。

覚……空気読めよ。

「テカサ、マスゴミニデモコノジョウホウウレバウハウハジャネ?」

誰だそんなの考えたやつ。

私達の間には次第に妙な緊張感が張り詰めていきました。

何を考える? どうコミュニケーションを取る?

「テユーカ、オレラナニシテンノ?」

確かに――ハッ!? 思わず覚の発言に納得してしまった。

 

次第に、目に見える景色があやふやになっていくのを感じました。これは恐らくメンバー全員も感じたはずです。なぜなら、皆一様に目を抑えたり、頭をふったりしていたから。頭の中に流れてくる言葉。最早それは覚のものかもわからない、言葉の流入。言葉の暴発。言葉の洪水……

 

「誰が最初に言いだしたわけ? 妖怪だよ? 論破って言葉の意味わかってんの?

ロジカルシンキングも何も、ただ相手に心読まれて先に言われちゃうだけじゃぁ、何にもできるわけないじゃん。うっわマジこいつキモイわ。MECEに適応してみればいいんだ。妖怪というくくりで考えれば――覚は何になるんだ? いいか、ロジカルシンキングっていうのは、物事を無駄に複雑にして考える、というような誤った見方をされがちなんだよ。でも本当は真逆だ。複雑な物事を、正確に分析してやることでシンプルに、わかりやすくする考え方なんだ。だからこのサトリにだって論破という――たまたま私があなたの部屋に遊びに行っただけなのに何勘違いしてるんだろね。すごいわー勘違いスキル。妖怪だよ? 妖怪なんだよ? ゲ! じゃないよ? ゲゲゲ! だよ? 科学がきっと私達を守ってくれる。大好きなあの人が傍にいないのだから私が今生き続ける理由なんてタダノヒトツモアリャシナイ。サトリが食べに来たのは人間ですよ。脳みその中のあらゆる記憶を掘り起こさせてゾンビみたいにウジャウジャと僕は魚の骨だけは許すことができないから山の中へ行って彼女の遺骨を埋めましたくぁうぇrtふyひじょkpl@;」

 

 

――あの日、私達は恐らく同時に気を失い、同時に我に返ったようです。

そしてあの場所にいたメンバー全員が、

「何かを失った感覚」に捉われていました。

しかし、一体何を覚に奪われたのか、誰もわからないのです。

 

大学に戻り、あるメンバーの大事にしていた携帯電話の待ち受け画像をみんなで見ていた時、私達は覚が何を奪っていったのか、わかったのです。

その男性メンバーの携帯電話の待ち受け画像には、初恋の相手の画像があり、前からしつこい程に「かわいいだろぉ?」とみんなに自慢していました。しかし今、彼はその画像の人物が「誰だかわからない」と言うのです。

その瞬間、全員が悟りました。

覚は私達の記憶を奪ったのだ

と。

そしてその男性メンバー以外は、誰一人として自分が何の記憶を失ったのかわからないままです。

かつて覚に会えた人物達も、同じような経験をしていたのだろうか? と疑問に思いましたが、サークル内での有名な話として、「覚に逢うと性格が変わる」というものがありました。覚に遭遇したサークルの先輩達のほとんどが、直後にサークルを辞めていってしまっていたらしいのです。

記憶を失ったせいなのか、覚に遭遇した衝撃からなのか……原因はわかりません。

 

私は、まだメンバーにも言っていないことがあります。

あの日、覚と遭遇したあの日から、私のものではない記憶を見ることがあるのです。

記憶自体曖昧なものですから、確証はないのですが、明らかに私が見たことのない風景――例えば行ったことの無い国の風景――等が鮮明に脳内に映ることがあるのです。

覚が奪った記憶は、どこへ行くのか? もしかしたらは覚は……

 

サトリという名前が、「悟」ではなく「覚」である理由は、もしかしたら今私が体験していることと関係があるのでは? そんな風に今は思い、また同時にこれから私に何が起きるのか、不安で仕方ありません。

とにかく、妖怪に面白半分で接触しようとするようなことはやめた方がいいです。それはあくまでも妖怪。私達とは違う世界の、違う次元のイキモノなのですから。