妖怪うぃき~現代にも現れる妖怪達~

妖怪……いるんですよ、現代にも。現代で起きた、妖怪達の目撃情報を紹介いたします。

放置しすぎて更新する気概も無いので、図鑑の方に統合し始めてます。過去の記事も一部図鑑へと移しているので、妖怪うぃき的妖怪図鑑の方へお越しくださいませ。

滝にて人を喰らう牛鬼

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牛鬼(ぎゅうき・うしおに)

 

初めまして。フリーで物書きをしている里中という者です。

今回は、僕が体験したものの中でも、なぜか公にできなかった、されなかったお話を紹介したいと思います。

実は……このような揉みけしや圧力のかかった話はいくつかあるので、これを機に、物書き生命を賭けるつもりで存分に暴露していきたいと思います。

 

この話は、今から3年程前に遡ります。

当時の私は、増え続ける一方であった自殺者の問題についての記事を書いており、様々な自殺の名所と呼ばれる所に赴いては自殺願望者の話を聞いたり、時には説得したりと、なんだか誇れるのかそうでないのかよくわからないことを続けていました。

 

あの日は、今でも自殺の名所として有名なとある大きな滝に取材に赴きました。

暑い夏の日で、滝の荘厳さと、水しぶきとで大層涼しく感じたのを覚えています。

また、観光客も沢山いたので、そこが自殺の名所であるということなど忘れてしまうほどに明るい雰囲気が漂っていました。

兼ねてからアポを取っていた通りに、僕は滝の管理組合の方に、自殺者がよく見つかるという場所へと続く、頑丈に施錠された門まで案内してもらいました。

 

当時はそのような取材を沢山こなしていた僕は、その門の前に立った途端、

「やばい」

と感じました。

ほんのすぐそこには観光客用の出店が並び、にぎわっている。だというのに僅かばかり離れ、丁度木々によって遮られ、死角となっているこの門の辺りは明らかに空気が違っていたのです。

「案内はここまででよろしいですか?」

管理組合の方がそう尋ねてきました。僕がその方を見ると……お願いだからこれ以上進ませないでくれ、という懇願のようなものが読み取れました。

何があるのか?

僕は物凄い恐怖と、物凄い興味とが混じり合った複雑な心境でした。

「えぇ、結構です。ありがとうございます」

僕は礼を言い、その門が開け放たれるのをじっと見ていました。

組合の方は僕が門を通る際、

「くれぐれも長居なさらぬよう」

と何度も繰り返し言っていました。

 

滝の轟音も少ししか届かない、鬱蒼と茂る木々の道。

昼間なのに、どこか薄暗い。

そして僕は一つの大きな疑問を抱きました。

「滝から遠のいてる?」

音がどんどんと小さくなっていくのです。

滝壺を巡る道が遠回りであったり、ぐにゃぐにゃしていることはよくあるのですが、この道はずっと真っ直ぐ続いている。

僕の心に暗く、黒い何かが覆いかぶさっていくような気持ち。

 

それから数歩も歩かぬ内、僕は最初の自殺者を見つけてしまいました。

いくらかは見慣れているとはいえ、そう簡単に見るものじゃない。

それが、門を抜けてまだそんなに歩いていないのに見つかった。

管理組合は何をしてるんだ?

――そんなことを思いながら、僕はその自殺者のなれの果ての姿を目を細めて観察しました。

腐っているのはもちろんですが、やはり気がかりなのは場所。

なぜかその死体は、木の上にあったのです。

首を吊ろうとしたのであれば縄の一つでもありそうなものですが、その木には何も吊るされていない。まるで木の上に逃げたかのような格好。

そして、なぜかちぎれたように木の下に転がっている二本の足(だと思います)。

さらに、木の幹に大きな穴がいくつも開いている。

 

この自殺者がどのような自殺をしたのか、僕には全く解りませんでした。

散々、自殺者の方法を見てきた僕が、です。

強いて可能性をあげるとすれば、発狂した末の奇行――でしょうか。

自殺という、この世の中でも最も特異な「行為」では、人はよく正気を保てなくなるものです。こういった例はいくつも見てきました。

その中でもこの自殺者はかなり狂ってしまったのでしょう。

僕が、組合の方にこの位置を知らせるべく、携帯電話をいじっている時でした。

滝の音とは異なる、動物の鳴き声のようなものがどこからか聞こえてきたのです。

それは、一番近い動物で言えば牛だと思います。

モォ~

という、低く、気怠そうな響きの音。

しかしこのような場所に牛がいる筈も無く、空耳だろうと決めつけて僕は電話をかけました。

 

長く続く、一直線の暗い道を眺めながら、僕は電話の呼び出し音を聞いていました。

組合の方から聞いておいた番号が違っていたのか、なかなか電話はつながりません。

僕は時折風に乗って鼻に入る、死体のあの臭いに眩暈を覚えながらも、辛抱強く呼び出し音を聞いていました。

 

ようやく電話に組合の方が出てくれました。

「あ、先ほど案内して頂いた里中です。実は、自殺者と思われる死体を見つけてしまいまして」

「あぁ……そうですか」

組合の方の声は、なぜか鬱陶しげに聞こえました。なぜ?

僕はその後、場所を細かく伝え、必ず「送る」ようおねがいしました。

送る、とは、自殺者の遺体を「片付ける」いうほどの意味で使っている隠語です。

 

終始、聞いているのかもわからないような組合の方の態度に嫌気がさした僕は、とにかくお願いしますよ! と半ばやっつけ気味に言い放ちました。

その時、またあの牛の音が聞こえた気がしました。

電話を切ろうとする組合の方に、僕は慌てて一つだけ尋ねました。

「ところで、この辺りに牛なんていませんよね?」

「牛? 聞いたんですか?」

突然、組合の方の声が荒くなりました。

「えぇ。もぉ~、みたいな音を聞いた気がして。まさか滝に牛なんていませんよね?

それともこの辺りに牧場でも――」

「逃げろ! 早く逃げろ!」

僕は驚きました。突然、逃げろ! と叫ばれたのです。

「逃げろって? なぜです?」

ふいに、僕の見つめていた直線の道の遥か向こうに、人の顔が見えました。

人の顔……そして、それをくわえ、引きずる異形の動物。

牛のように見えたのですが、胴体部分が牛とは明らかに異なっている。

猿とか、ゴリラ。そんな感じの胴体。

なぜか冷静にその動物を観察できていた僕も、その牛のようなナニカがゆっくりと僕の方を見たのをきっかけに、一斉に駆け出しました。

 

とにかく夢中で逃げました。

何も考えず、ただひたすらに来た道を戻り、門を抜け、丁度門の傍で不安そうに立っていた組合の方と出会うまで、ずっと。

 

その時の組合の方の様子を、今でも僕は鮮明に覚えています。

真っ青な顔で僕を迎え入れたその方は、すぐに門を閉め、施錠し、そして手を合わせて念仏のようなものを唱えたのです。

必死に、悪魔でも祓うかのように。

 

 

――数日間、僕はその日組合の方に言われたことをずっと考えていました。

 

「牛鬼っていうんだ。妖怪だよ。人を喰らうのさ。でも誰が信じる? 妖怪だぞ?

あんたが見た死体も、俺達は片付けたくないんじゃない。片付けられないんだ。

……俺か? あぁ、見たことあるさ。名前の通り、牛の頭に鬼の体だ。そうだっただろ? 退治? はは。したさ。何度も。そう、何度も、何頭も。でもキリがない。何頭いるのかも皆目わからん。……公にする……か。やめとけ。国が知らないとでも思うのか?……そういうことだ。

自殺なんて甘っちょろいことしようとしたバカが、最後に最高の化けもんに遭い、食われるのさ。ざまぁねぇや」

 

この牛鬼との出会いは、僕のその後の人生を大きく変える出来事になりました。

妖怪などという絵空事と思ってきたものが、存在する。

それは正確には妖怪などではないのかも知れないけれども、確かにいる。

真実なんていうものはどこにあるのか、誰が知っているのかなんてわからない。

自分で見たもの、感じたことだけが真実なんだ。

……そう僕は思ったのです。